心の棲み処

個展『えもいわれぬ』を終えて

 先月、ギャラリースバル(泉大津)での個展『えもいわれぬ』が無事会期終了を迎えました。

 改めましてご来場、ご購入頂いたお客様、遠方より応援下さった方々、関係者の皆様、誠にありがとうございました。

 会期後、もう一ヶ月も経ってしまったんだなぁ……、と思いながら今更ではありますが、総括させて頂こうと思います。

 今回、泉大津で個展を開催することを決めたのは4月下旬、アトリエSubaruの方々からお誘いを受けた時でした。アトリエSubaruさんは1階のアート教室部分と2階の展示スペースであるギャラリースバルによって構成され、定期的に面白い企画の展示が開催されている場所です。

 こうした地域性を重視したギャラリーで個展を開催させて頂くことは僕としても初めての試みであり、開催に漕ぎつける迄、心境的にもなにかソワソワとした感覚が漂っていました。

 恐らくこの感覚は、僕がこの泉大津という町に20年以上住んでいるのに、知らない部分があまりにも多すぎるから生じるものなのだと思います。

 大阪湾を望む港町である泉大津は、交易の拠点、そして毛織物の町として発展を遂げてきました。港からは長距離のフェリーも出ていて、九州の新門司港まで一本で行くことが出来たりもします。

 ただ、僕は子どもの頃泉大津の中でも内陸の出身だったこともあり、この町が港町であることを実感する機会というのはそんなに無かったと思います。海というのは近くて遠い場所、というのが僕の幼少期における率直な感覚でした。

 ただ、大人になってから改めてこの町を眺めてみると、当たり前に見ていた日常の風景が、少しづつ変化していることに気づかされます。人も、建物も、自然の風景も、少しずつ新しい姿に更新されていくのはある意味では当然のことですが、こうした過去の心象風景を何か形として留めておけることが出来ないか、と思ったのが今の作品を描くようになったきっかけです。

 「心」という不確かな存在を、明確な形として描くことは限りなく不可能に近いことなのかもしれません。僕の絵は抽象的で中間色でありながら、描く線は硬質でくっきりしたものが多いのですが、それは心の機微そのものを表現する為です。

 よく「複雑なように見えて単純」とか「単純なように見えて複雑」といった風に言ったりすることがありますが、これ自体は物凄く矛盾していることなんですね。複雑さと単純さは対極的な意味合いを持つ言葉ですから、それが同じ画面の中に同居してるってことは、実はとても不思議なことなのです。

 心の在り方というのも同じで、言葉だけで簡単に割り切れたりするものじゃないから、形や行動として表そうとする。僕が絵を描き続ける理由は、多分そんなところにあるんじゃないかと思っています。

 これからも心を描き写す為、一日一日を大事に、絵を描き続けていこうと思います。そして、鑑賞者の方々に、そうした心の響きや震えを作品としてお見せすることが出来ましたら幸いです。

 今年も既に折り返しを迎え、夏のど真ん中に位置する季節となりましたが、体調を崩されないよう、ご自愛ください。